三保の松原にハマボウフウが咲く

三保の浜富士見えぬ日や浜防風

 

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俳句の友人らと、清水の三保海岸へハマボウフウを見にいった。

三保の松原世界遺産なので、人出を心配して平日を選んだら、観光客はほとんどいなかった。「みほしるべ」という世界遺産案内所ができ、駐車場も整備され、浜の松林も美しかった。500m続く参道の松並木(「神の道」と言われている)も、実に風情があった。

 

さて、ハマボウフウだが、かつては浜にいくらでもあったセリ科の野草だが、開発や採取で激減したという。地域によっては絶滅危惧種に指定されているという。

酢味噌あえにしたり刺身のつまにしたようだ。確かに口にするとセリの味がする。

案内してくれたのは地元にお住いの俳友さん。三保の浜をくまなく歩いておられて、ハマボウフウの株のありかを事細かに調査されていた。ハマボウフウはちょうど満開で、あちこちに点在しながら砂地に平たく葉を伸ばし、白っぽい花を開いている。花はちょうどコロナウイルスのような形と言えばわかりやすいだろうか。

そして、松林の中の株にも案内していただいたが、それは浜のものとは形が異なっていて、葉茎が伸びあがり縦長だった。こうした形状のものは初めて見た。

林の中に北原白秋の歌が掲示されていた。

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「松原に白き飯(いい)食む春さきは浜防風も摘むべかりけり」

ハマボウフウを食べろと言っているが、さて今日ではいかがなものか。

 

 

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(神の道)これほどの松の参道は全国的にみても稀有

世界遺産登録の際に、三保は富士山と一体の文化を形成していると説明して、認可を得たと記憶している。しかし浜の護岸工事のテトラポットなどが自然景観にそぐわないとも指摘された。歩いてみると、確かにそのとおりの印象があり、さらに養浜のため大規模に砂を運び込む工事も行われ、ダンプがひっきりなしに行き交っている。

その砂も友人の言葉では、「一度台風が来るときれいに流されてしまうからね」

ナンジャモンジャってなんじゃ?

真白きは噂の花かナンジャモンジャ

 

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先日、ナンジャモンジャが満開だと聞いて、近くの沼の公園に見に行った。シュレッダーで切った紙のようちらちらした白い花が、豪勢に咲いていて一見の価値はあった。木の下で花見のお昼をしている人もいた。

 

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この奇天烈な名前の花は、私も昔から耳にはしていたが、最近あちこちに植樹されて、珍しい花ではなくなってきた。静岡近辺でナンジャモンジャと呼ばれているのは、本名がヒトツバタゴ(一葉タゴ)という木のことであるが、さて全国的にみると、いろんな木がそう呼ばれたらしい。牧野富太郎博士が、「ナンジャモンジャの真物と偽物」(講談社学術文庫)で詳しく説明していて面白い。

 

江戸時代から有名だったナンジャモンジャは、千葉県神崎町の神崎神社の御神木であるという。そしてこの木がナンジャモンジャの元祖、ご本家である。

千葉県教育委員会のホームページでは、次のように書かれている。

 この木は古くからナンジャモンジャとして有名である。水戸光圀が延宝2年(1674)にこの神社を訪れたとき、「この木は何というもんじゃろうか」と自問自答したことによるといわれているが、実際にナンジャモンジャという名が広がったのは、文化・文政頃の庶民の旅ブームにのってのことである。

 

江戸末期安政5年(1858年)に発行された、赤松宗旦の「利根川図志」にもこの木は挙げられていて、宗旦は「いと年経たる桂の木」としている。これに反し牧野博士は、現地に実物も調べて、ナンジャモンジャの正体はクスノキと断定している。宗旦の図と牧野博士の図を並べてみたが、私には区別がつかない。

 

f:id:zukunashitosan0420:20210429143140j:plain   赤松宗旦「利根川図志」

f:id:zukunashitosan0420:20210429143255j:plain 牧野富太郎博士

 

牧野博士は、ナンジャモンジャの偽物を列挙しているが、その第1のやり玉に挙がっているのが、私が見に行った、件のヒトツバタゴである。かつて東京の青山の原に大木があって、珍しいものだったが、ある時から誰かがナンジャモンジャと呼び出して、今では学者もそう呼ぶ有様だと博士は嘆いている。

第2は筑波山にあるアブラチャン、第3にヤブニッケイ、第4には紀伊那智の入口にあると古書にかかれているシマクロキ、第5に三島市三島神社境内にあるカツラで、昔将軍家よりお尋ねの節、宮司これをナンジャモンジャとお答えしたとかいう伝説がある。第6に埼玉県東松山市の箭弓街道際の畠中にあるイヌザクラ、第7はバクチノキ。以上をあげ、さらにまだほかに詮索すれば出てきそうだが、としている。

 

牧野博士のこの本は、1947年に発行されたものなので、70年前の記事であるから、今日一般的に、ヒトツバタゴがナンジャモンジャと呼ばれている状況を見れば嘆くに違いない。けれど、ナンジャモンジャは、実はクスノキなのだ、と言っても何も面白くないことも事実なのだ。

私は、三嶋大社なら行くことができるので、今度参拝したらこの偽のナンジャモンジャ(カツラの木)も探してみようと思っている。

アマドコロの仲間たち5種の競演

木漏れ日の一筋射してあまどころ

 

一月前に、庭の野草の芽を紹介したが、それらは皆しっかり咲いて、既に花を終えて、夏の栄養吸収の季節に入りつつある。

春の花たちは、振り向きもせず通り過ぎていく。人間の一生も同じなのかもしれない。

以下は、みんな似ていて私の持っている山渓の「日本の野草」ではすべてユリ科で整理している。ものによってはキジカクシ科とかイヌサフラン科などという分類もあるが、素人はユリ科にしておく。写真は庭に咲かせているものだが、いずれもあまり目立ちもせず俯いて花を咲かせていて、気が付くともうしぼんでいる。

 

さて、先ずアマドコロ(甘野老)

根が野老(トコロ:やまいも)に似ていて、甘くて食べられることから来た名前。

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次いでナルコユリ(鳴子百合)今年は花が遅いので心配している。昨年の写真。 

アマドコロに似ているが、茎が丸くやや繊細。花の数も多い。

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次は、ヒメイズイ(姫萎蕤)

10~15㎝ほどで、直立する。耳慣れない名だが、イズイはアマドコロの漢名。

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芽は紹介しなかったが、チゴユリ(稚児百合) 

小さな花を稚児に見立てた。根を這わせて翌年は遠くに咲かせてびっくりする

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同じく紹介しなかった、ホウチャクソウ(宝鐸草)

ホウチャクとはお寺などの屋根から吊り下げられた風鈴型の飾り。枝分かれするので他と区別がつく。

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駿河七観音 平澤観音の御開帳に参拝

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清水区日本平北麓にある平沢観音では、7年に一度の御開帳があると聞いて出かけてきた。

2021年4月の11から17日の一週間、お堂を開いて秘仏の千手観音を披露している。先に訪れたのは冬だったので、あたりは冷え冷えしていたが今回は春の日差しに楓の若葉が眩しく映えてさわやかだった。参拝客は、ちらほら。

お堂に入ると、二人の男性が手持ち無沙汰に居眠りしながら当番をしていた。護摩壇があってその奥に厨子があり扉が開かれていた。その両側には30㎝程の諸像が整列している。

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どうぞ、そばに寄ってみてください。

と言われて近寄ったが、厨子の中はやはり暗くて秘仏は十分には見えない。写真を撮らせていただいた。

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大きさは130㎝ほどとのこと。親しみやすそうな可愛いお姿である。

この観音像は、寺の縁起によれば鎌倉末の作ということだが、私がネットなどで調べた限りでは、公の文化財に指定されている様子はない。ということは霊山寺や鉄舟寺の像は平安時代の古いものであったが、この観音様はそれとは違うということなのかもしれない。私ら素人が遠目に見て違いがわかるわけではない、と思うが。

御開帳にあたり、稚児行列なども行われ、盛況だったと新聞が伝えている。コロナで節分の豆まきも中止となっていたので、久しぶりの賑わいだったのではないか。

紫色の野草を4つ

野の花や清明の雨やわらかに

 

ジュウニヒトエ(シソ科)

庭の隅にあったものが、ゆっくりだが着実に地保を固めて増えている。春に花茎を立て鈴なりに紫色の花をつける。その立ち上がった姿がいい。

ただし写真の花は、どうやら園芸種のアジュガで西洋ジュウニヒトエなどとも言われるもののようだ。私は山野草ジュウニヒトエを山野でしっかりと確認したことがない。次の、キランソウと同じ仲間であり、花の形も似ている。 

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キランソウ (シソ科) 

どこにでも生えてくる、わが庭では厄介者に近い。沢山はいらないので総数制限をしている。全体平たく成長し、花茎も立ち上がったりしないが、どっこい、根は頑強でしっかり地面に張り付いていて、簡単には取れない。地獄の窯の蓋、といわれるのも分かる気がする。 

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ホタルカズラムラサキ科

 ツルは伸びて、ざらざらしていて始末が悪いが、花は写真のとおり素晴らしい。この時季、直径が1センチに満たないものを二つ、三つ、ツルの先につける。初めは薄紫色だが、次第に青を濃くしていき、やがて澄んだマリンブルーになる。色だけで言えば、リンドウやツユクサといい勝負だ。中心から伸びている白い5本の線もいい。

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コバノタツナミソウ (シソ科) 

一斉に花をつけると、文字通り花の形が浮世絵の波のよう見える。花ははかなく美しいが、草としては繁殖力が強く、根がしっかり食い込み、駆除が大変である。狭い庭に適量に管理するのが難しく、放っておくと直ぐに占領される。

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キブシやダンコウバイなど春の山花

いつ知らず待つ花となる木五倍子(キブシ)かな

 

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 (キブシ)

 

今年は桜が記録的に早い。ソメイヨシノだけでなく、山桜も早かった。2,3か所に見に行ったが、気のせいか今年は桜が特に美しいきがする。

山里などに、入りこむと人知れずいい桜が咲いていることがある。そんな時は、ずいぶんと得をしたような気持になって、独占的な気分でしばらく花を愛でる。愛でるというより、花と一緒に居る、一緒に時を過ごすという気分と言ったほうがいい。耳の奥がぼーんとしてくるような間延びした時間が来る。サクラの放つ微かな匂いが、辺りに漂っているのが見えてくる。小さい虫の羽音が聞こえてくる。・・・西行の「花のもとにて春死なん」も、ああ、分かるような気もするなあ、などとぼんやりと考える。

 

さて、サクラではなく、黄色い花も結構いい。

懐かしいような何となく古里気分というか、気兼ねしない感じなのが、木五倍子(キブシ)だ。

春の早いころから子供のつくったモービルのような、ちょっと下手な飾り物のような花房を垂らす。雌雄があるらしいが余りこだわってみたことはない。そしてこの難しい漢字がまた楽しい。林道の上から垂れ下がっているのを見つけると、ふっと心が和んでくる。

 

 

ヤマザクラを見ようと林道を進むと、沢の縁にダンコウバイが咲いていた。灌木だが一面に花をつけている。派手で目を奪うのだが、しんとした森の中では、特に奇異には思えない。

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(ダンコウバイ)

他にもサンシュユミツマタなど、新芽がふつふつと芽吹き始めた林の中に、黄色く咲いているのを見つける。

ああ良いねえ、蜜蜂も花を見つけると、こうした嬉しい気持ちになるのかな?

草の芽 ビッグバン

庭十坪 木の芽草の芽ビッグバン

 

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ヒトリシズカ:センリョウ科  やっと上がってきました)

 

じっさい、芽というものは、葉や花とおなじぐらい奇妙で、千差万別だ。あたらしい相違点を見つけていたら際限がないだろう。しかし、それを見つけようと思ったら、ほんの小さな、ネコの額ほどの地面をえらべばいい。・・・自分の庭にしゃがむがいい。立ち止まればいいのだ。そうすれば、ひらいた唇としのびやかなまなざし、やわらかな指とさしのべた腕、生まれたものの弱々しさと、生きようとする意志の不敵なひらめきを諸君は見るだろう。そしてその時、諸君の耳には、はてしなくつづく芽の行進のどよめきが、かすかに聞こえるだろう。

カレル・チャペック『園芸家12か月』の「3月の園芸家」より)

 

チャペックさんの言うとおり、狭い庭だが命が爆発している。

住人の何人か紹介しておく。花もいいのだが、その芽にも 個性があって見ていて飽きない。

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(アマドコロ:キジカクシ科  たくさんの風鈴をつけます)

 

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ナルコユリキジカクシ科 上のアマドコロと区別がつきにくいが、芽生えから繊細な雰囲気がある)

 

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(姫イズイ:キジカクシ科 イズイとは萎蕤(いずい)と書いてアマドコロの漢名かな。これは小型で伸びても15センチ足らず。芽も小さい。やはり風鈴を下げる。)

 

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ギボウシ:キジカクシ科  こいつはたくましい、どんどん増える)

 

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オニユリ :ユリ科  これもたくましい、今年もアゲハを呼んでくれそうだ)