青富士の青を一歩一歩かな
(「富士山自然休養林ハイキングマップ」(富士山自然休養林保護管理協議会)に加筆)富士山自然休養林保護管理協議会
富士山の「村山口登山道」という古道を友人Eと歩いてきた。
と言っても、昇ったのではなく降ったのであり、それも約1700m付近から1250m付近までの登山道のごく一部である。(図の星印 2→3→4)
老脚4本にはこの程度が丁度よかった。
このルートは、村山道とも呼ばれる道で、いわば現在の富士宮口登山道の旧道にあたり、江戸時代までは南面のメインルートだったが、新道の開設で今は廃道となっている。その後時の流れに埋もれてしまい、いまは富士山麓のハイキングマップにも紹介もされていない。掲載のマップにもこのルートはない。いわば知る人ぞ知る径である。
それだけにルートの状況については、不安があった。
高鉢駐車場から歩きはじめ、静かな森の中を少しだけ高度を上げながら約25分で、旧村山道との交差点に出る(図に記入した2)。村山道はまっすぐに山頂を目指して続いている。ここから下山を始めたが、道は予想外に踏まれていて、迷うような心配は全くなかった。目印の赤いテープも要所要所につけられている。
気温は下界よりも10度低い21度、鳥の鳴き声、蝉しぐれが林に響き快適なコースだった。コケが林床一面に広がり緑色の森である。木洩れ日に照らされてその鮮やかさが目に染みる。一応クマよけにラジオを鳴らして進む。スコリアを踏む音が快調。
今回の概ねのコースタイム。昼食時間は入っていない。
・高鉢駐車場から村山道分岐まで約25分
・1600m付近のスカイラインとの交差点まで、約20分。
・1350m付近のスカイラインまで約45分
・中宮八幡堂まで約30分 (この辺りでしばらくウロウロ、古井戸の跡は見つからず)
・大渕林道までやく30分
・西臼塚駐車場までやく25分
コケが岩を覆ってふわふわで、厚さ10センチほどもありそうだ。セミはヒグラシのような鳴き声だが、一体だれだろう。おや、ふわりふわりと飛んでくるのはアサギマダラだ。そういえば、食草のイケマがあちこちに生えている。が、花はまだ咲いていない。大きなコケの石の上に置かれているのは、骨。鹿の頭蓋だろうか、誰かがここに置いたのだろう。静かで蝉の声だけ。小鳥の鳴き声が遠くから聞えてくる。
(鹿の骨か?)
標高1,300m付近に、「中宮八幡堂」の跡地があった(図に記入した×印付近)。下ってくると日沢という深い沢に降りてロープで上がると、すぐである。やや広くぽっかりと樹々の無い空間で、コバイケイソウが群生している。広場上端にホコラがある。
説明看板があり読んでみると、この場所は中宮馬返しとも言われ、ここからは馬は使えないこと。女性はここから上は禁制となっており、付近に女人堂があり、女性はそこに籠って富士山を遥拝したこと。社屋があって下の村山部落から社人がここに勤め、雑木で作った杖を登山者に交付していたこと。堂は1400年代に今川氏輝によって創建され、明治37・8年までは茅葺の社屋、馬立屋などがあったが、ルートの衰微により倒壊したことなどが書かれている。
この場所で、年のころ70代かなと思われる自転車のおじさんに出会った。前輪よりも後輪が小さいつくりで彼方此方を走っている方のようだ。そのエネルギーにただただ感心した。今回出会ったのは、この方一人だけ。
ルートはここから20分ほどで大渕林道に出て(図の3)、そこからは林道を歩いて西臼塚駐車場まで戻った(図の4)。全行程約3時間半、何とか足腰も持ちこたえてくれた。
今回は素晴らしいルートで、藪漕ぎを覚悟していただけによく踏まれたルートには感激だった。さわやかさも抜群で、一面にコケの森林もなかなか目にすることのできない美しさだった。こんなルートが、公の管理もされずにひっそりと残されていた、そんな事実に感動する。
少し触れたが、このルートは路線の確定や維持管理の面で課題があったのだろう、世界遺産に指定されたのは、現6合目以上の部分だけだった(図の1から上)。我々が歩いた道は、世界遺産からもれたばかりか、市のハイキングコースにも記載されていない。これはどうしたことか。
江戸時代にはメインルートであったこの村山道に、もうすこし光を当てて昔の信仰、遊行を偲ぶよすがとして、整備するべきではないのか。村山浅間神社より下のルートは市街化も進んでいて無理としても、今回歩いた1250m付近から1700mほどは、よく踏まれていて、状況も保たれている。多くの人が歩くようになれば状況が変わる、そんな事を考えた。
村山道については、今回より下の部分も歩く予定にしており、この道の歴史や草花などについても、順次アップするつもりである。
(参考:コースの情報が少ないので、先達の本やネット情報を参考にさせていただいた。
・「富士山村山古道を歩く」畠堀操八 風濤社
・「富士下山ガイド」岩崎仁 静岡新聞社
・「富士山ハイキング案内」伊藤フミヒロ 東京新聞
・「富士登山と熱海の硫黄温泉訪問」(1860年日本内地の旅行記録) オールコック 山本秀峰 編・訳 露蘭堂
(高鉢駐車場 標高1660m 気温21度 )