ビナンカズラの共寝(赤い実の物語ー3)

赤き実やつやつや赤き霜の朝
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サネカズラ(ビナンカズラ)

サネカズラ(マツブサ科)
このつややかな赤は素晴らしい。見方によっては有毒にもみえる。
食べてみたら、うーん、少ーしは甘みが感じられる。中には大きな種がひとつ。
ビナンカズラ(美男鬘)という名前のほうがとおりが良いかもしれない。この名は枝の皮の粘る液体を水に溶かして頭髪を整えた、という昔の風習からのようだ。

サネカズラは古来歌にたくさん歌われていて、「後で遭う」という意味にかかる枕詞になることが多い。つるが延びてその先でまた出遭うということだろうが、出遭うというよりも、からみつくというリアルな語感なのかもしれない。

万葉集の巻2に鏡王女と藤原鎌足の相聞歌がある。
94は、サナさ寝
がかけてある。

93鏡王女 玉くしげ覆ふを安(やす)み開けていなば君が名はあれどわが名惜しも
(玉くしげのように人目にたっていないのをいいことに夜も明けてからお帰りになると、やがては人に知られます。あなたのお名前はともかく、私の浮名の立つのはこまります。)
94鎌足  玉くしげみむまど山のさなかずらさ寝ずはつひにありかつましじ
(玉くしげを開けて見る、みむまど山のさな葛のような共寝を、しないでいることは、私にはできないだろう。)
   *歌及び現代語訳は「万葉集(1)」 中西進著 講談社文庫 を引用


「さなかずらのような共寝」とは、どんなものかと問うもおろか。この赤い実を見ていれば、なんとなく判る(ようで判らない?)。

ちなみに、鏡王女は天智天皇に召されていたが、天皇から鎌足に与えられたようだ。鏡王女は額田君の姉という説、また藤原不比等の母であるという説もある。