ほととぎす鳴くや五月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もするかな(古今集:読人しらず)
庭に咲く写真の花は何なのか知らずにいたが、ふとその気になって色々調べてみた。一体アヤメなのか何なのか、これが意外に厄介だった。「いずれアヤメかカキツバタ」と言われるほどだから昔から人を悩ませてきたことがよくわかる。
本を見ていると、万葉の頃はアヤメグサ(菖蒲)すなわちアヤメとして詠われていたのは、いまでいうショウブをさしているようだ。ショウブはサトイモ科なので、見るべき花は咲かないから、当時はその香りを魔よけの民間信仰としていたらしい。それが今の菖蒲湯の風習に残っている。
それに対して今日いうアヤメは、アヤメ科であり、往時はハナアヤメといわれていたのだが、アヤメグサがショウブと言われるにつれ、ハナアヤメはアヤメと呼ばれるようになったらしい。
アヤメというのは、陸草だから水中には育たない。山梨県の櫛形山にアヤメの大群落があり私も2度登ったことがある。確かにここは水辺ではなく山頂だ。
ところが、茨城の潮来音頭には
とある。アヤメはマコモのように水の中に咲くことはない。アヤメグサとハナアヤメの混乱だろうが、これをかの牧野富太郎博士は、「アヤメがこんがらかって、ウソとマコトで織りなされている。全く事実を取り違えたつまらぬ謡だ」と例の調子でまくしたてていて痛快である。
こういう謡には、新潟甚句にも
♪新潟の 川真ん中に アヤメ咲くとはしおらしや
などの類型がある。民謡を楽しむ人々はあまり草花を峻別していなかったのか。
などの類型がある。民謡を楽しむ人々はあまり草花を峻別していなかったのか。
パンフレットを注意深く見ると、「あやめ(花菖蒲)」という表記になっている。どうやらアヤメではなく花ショウブらしい。(直接聞いてみないとわからないが)
「花ショウブは、元来、わが邦(くに)の山野に自生している野ハナショウブがもとで、それを栽培に栽培を重ねて生まれしめたものである。」(牧野)。これが江戸時代の旗本、松平左金吾というマニアが一生かけて品種改良をかさね、世界の花の一つになったのである。(中尾佐助:「花と木の文化史」)紛らわしいことだが、花ショウブは水でも陸でも生息する。
これらの区分の一番簡易な方法は、花びらのように見えるガクのつけ根。
ここに
○網目のような模様があればアヤメ、
○白い線だけならカキツバタ、
○黄色い線だけなら花ショウブ なのだということだ。
ここに
○網目のような模様があればアヤメ、
○白い線だけならカキツバタ、
○黄色い線だけなら花ショウブ なのだということだ。
と、回り道をしたが、どうやら写真の庭の花はジャーマンアイリスのようだ。これはガクのつけ根に、ヒゲのような毛が生えていることで区別できる。ついでに似ているイチハツは、つけ根にトサカのような突起があることで区別できるそうだ。
「万葉の花」桜井満 雄山閣