「山猫軒」と遠野物語

遠野から花巻に出て宮沢賢治記念館を訪れると「山猫軒」の看板が目についたのでそこでカツ丼を食べた。
「山猫軒」は、言うまでもなく「注文の多い料理店」の店名で、東京から来た太った若いハンターが、危うく山猫の料理にされそうになる童話の舞台である。
一方、遠野物語の世界には、神や不思議や恐怖と一緒に生活していた100年前の東北の山村の姿が写し取られている。ここには河童や座敷わらしや亡者が出てきたり、女が蛇に魅入られて死んだり、山人にさらわれたり、さらには大津波で死んだ妻の亡霊も出てくる。ヤマハハが娘を食う話はあるのだが、猫の話はあるのかどうかと探してみると、「遠野物語拾遺」に、虎猫が少女を食い殺したり、浄瑠璃を謡う化け猫が飼い主の女主人を喉を噛み切って殺す話があった。化け猫は杳として姿を消してしまう。
かつて山にはしっぺい太郎のヒヒやスサノオの大蛇など人を食べる化物が棲んでいた。これら「縄文文化的化け物」は結局退治される運命だったが、童話の山猫の立場は逆で、そうした敗北とは無関係である。むしろ「平地人を戦慄せしめよ」(遠野物語序文)と呟いているようだ。
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 白金豚のカツ丼