名月と鬼

満月のこうこうたる光は、余りに明るいがゆえにかえって夜の不気味さを増長する。
有名な信濃姨捨山の月は、平安時代の歌物語「大和物語」にある物語で、男が年老いた姨を山奥に捨ててきたが、その夜、月が明るく出たのをみて
 わが心なぐさめかねつ更科や姨捨山に照る月をみて
と詠み、つれて帰った。という話になっている。今は高速長野道の姨捨山SAのあたりで善光寺平を見晴るかす眺望のよい場所である。
男はこうこうとした月明かりに佇む叔母をイメージして耐え切れなかったのだろう。月の明かりは、山形の「月山」を連想し死の世界や鬼気さえ感じさせる。
源氏物語の「夕顔」は、生霊に取り殺されるがそれは8月16日のことである。今昔物語には鬼が人を食うという凶暴な話がいくつか登場する。巻第27の第8は、8月17日の月の極めて明るい夜のこと、若き女3人のうち一人が松の木の下にいた男に呼び止められ話をしていたが、なかなか戻ってこないのでどうしたかと探してみると、誰もいなくて、女は足と手だけを残して屍もなく食われてしまっていた。
この時期の月の明るさが話にぞっとするような凄みをくわえている。
 
秋の名月らしいので、写真を一枚撮ってみたがただの丸で何の変哲も無い。でも、しいてイメージを膨らめて一句。
 
満月が太平洋を越えてくる   しげる
 
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