神代のサクラに会う(シリーズ風景の中へ12)

神代桜という名前からして立派なサクラを見にいった。
山梨県北杜市の山の中、実相寺にあって、さすがにこの時期になると花は大方散ってしまっていたがなかなか貫禄も趣もあった。樹齢1800年とか2000年ともいわれるエドヒガンザクラで、国の天然記念物にもなっている。写真のとおり満身創痍だが、まだまだ咲かんとする壮絶な迫力を感じさせる。
境内 には三春滝桜、根尾谷薄墨桜の子孫も花を咲かせていて、いっぺんに日本三大桜をみることができた。品種はいずれも日本の昔からのもので、ソメイヨシノの少女っぽい美しさに比べると、誇張して言えば成熟した女の命の深みを感じさせる。どちらを好むかはそれぞれだ。
ソメイヨシノは江戸末期から明治期に江戸の染井村の植木職人達によって育成され、種では増えないので接木などで全国に広まったとされている。そうしてみると、和歌や古典文芸に盛んに登場するサクラは、われわれが今普通に花見をするソメイヨシノとは、ずいぶん趣が違っていたのだろう。
まず、サクラは里ではなく山にありそれを眺めるものだった。花の期間も長いのだろうか、ソメイヨシノのようにいっぺんに散るという雰囲気でもなさそうだ。したがって散る美学はあるけれど現在ほど大げさではないのだろう。神社の祭りなどでは、サクラは豊作の吉凶をうらなうものとして、あまり早く散りすぎるのはよろしくないそうで、「やすらへ、花や」と唄われるという。それでも当時の花時間は、現在のソメイヨシノ時間に比べると、もっとゆったりしたものだったのかもしれない・・・などと思って今日のサクラ雨の無聊を慰めている。

サクラサク生老病死の時間(とき)を越え


イメージ 1