歯のない俳句

歯が悪いせいか、前々から気になっていた山頭火の句がある。
 
ほろりとぬけた歯ではある
 
肉体をいじめているとしか思えない生活は、歯もぼろぼろにしたのだろう。だから
へうへうとして水を味わう
という句も、白い歯で阿蘇の白川の源の清水を口に含む、という爽やかな映像は湧かない。むしろ黄ばんでちびた老人の歯の隙間を水がこぼれる印象がある。
芭蕉の歯はどうだったのだろう。
掬ぶより早歯にひゞく泉かな
山頭火の歯を思えば、これも歯痛ととる説が正解かもしれない。
 
先日、私も奥歯を抜いた。もうこの2年ほどぐらぐらしていて体力が落ちると歯茎が化膿して困っていたのだが、漸く抜く決心をした。
歯医者の言うとおり、もう何の抵抗もなく抜けた。まさに「ほろりとぬけた」。情けなく悲しかった。駄句をつけたしておく。
 
親知らず抜き穴深し秋の水
イメージ 1