越前から野菜来る

前田殿熊と競いて柿をもぎ

 

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越前大野の友人から、思いがけず段ボール箱が届いた。開けてみると、柿30個ほど、辛そうな大根、赤い大カブが出てきた。名物羽二重餅もひと箱入っている。

メモ書きを読むと、柿は、熊が来るので危ないから早く取り入れろと市から指導があったのだという。大根も株も自分の畑のもので、まだ黒い土がしっかり付いている。

こういう趣は大好きである。自分が、都会人ではないせいか、テレビで話題のブランド食品などにはいまいち関心がわかないのだが、こうした地の野菜などには興味津々、心温まる。

 

もう大部前になるが山の中の城下町を訪れた時のことをいろいろ思い出させてくれる。ぐるりの山々はもう紅葉しているだろうか、おばちゃんちは清冽な水で大根を洗っているのだろうか、イトヨはまだ動いているのだろうか、城下町の風情のある街の通りに観光客が来ているだろうか等々。

 

件の友人はもう半世紀前になる大学の同級生である。私は勉強をしなかったが、彼は風来のようでいていつの間にかしっかり勉強していた。アパートも遠くなかったので、お互いに夜中に行き来したりしたものだ。私のアパートであさま山荘事件のテレビ中継をずっと見ていたことを思い出す。どんなことを話したのだったか、もう忘れてしまったが、お互いに若くて多感だったし、人生なんて夢よりも不安のほうが大きかった時代だった。

 

タラの芽を食べることを、私に再認識させたのは彼だった。

私が就職して沼津に赴任していた時のことだが、彼は帰郷する折に東名バスで沼津で降りて、私のところまで歩いてきたことがあった。東名は愛鷹山麓を走っていたので、家まで3,4キロはある。そして着くなり袋を二つ差し出して、

「この辺はタラの芽を食わないのか?道すがら、採り放題だよ」

という。当時はまだ静岡ではタラの芽を食べる習慣がなかった。

その晩は、タラの芽を確か空揚げにして酒の肴にし、その美味さにびっくりした。それがその後に私が山好きになる後押しをしたことは言うまでもない。

そんな彼も私も古稀を過ぎた。それも驚きだ。