ペリリュー ―楽園のゲルニカ―

ペリリュー戦記読んで大寒を震えおり

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(主人公が命を懸けて投降する場面)

「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」全11巻を読み終えた。白泉社から出ているコミックで、著者は武田一義さん、原案協力:平塚柾緒さん(太平洋戦争研究会)と記されている。

 

ペリリュー島は、先の天皇皇后が特に希望して慰霊に訪れたことで知った方が多いのではないか。私もそれまでは知識がなかった。パラオ共和国の小さい島である。ここに飛行場を持っていた日本軍約1万は、進攻してくるアメリカ軍4万余に対し文字通り死守する闘いをしたのだが、1944年11月に玉砕した。しかし、敗残兵は玉砕ではなく持久戦を命令され、悲惨な逃走を強いられる。食べ物がない。隠れ家がない。米軍のしらみつぶしの兵狩りと闘い、負傷、病気の手当てができない。そんな中で兵は次々に息を引き取っていく。飢えと病気のみじめな死。そして終戦も伝えらないままに最後まで生き残った34人の闘いが描かれている。

 

主人公は漫画家志望の気の良い男で、画面は幾分可愛らしいキャラで描かれ、劇画調ではないので、幾分ストレスは少ない、が描かれた内容は厳しい。

敗戦から足掛け2年の1947年2月、主人公は、戦争が終わっているのではないかと疑いを深め、仲間から砲撃を浴びながら脱走し、白旗を挙げて米軍に投降する。日本軍では投降するものは死刑だったのだ。果たして戦争はとっくに終わっていた。彼は、みなと協力して、居残る兵士たちの家族の手紙を取り寄せて何とか仲間の説得に成功し救出する。最後の最後に親友を亡くしたり、時の上官は帰国を拒否し失明したままこの島に残るなど、描かれる多様な人物像も複雑でリアルである。この漫画に書かれたことの多くは、事実に違いない。

およそ近代の軍隊とは名ばかりの、連合赤軍を思わせる、精神だけの破滅軍団という印象であり慄然とする。

ペリリューでは10,000を超える軍人・軍属が死亡、遺骨回収は8,000体ほどだという。天皇がペリリューに赴き頭を垂れた姿を死者たちはどう見ていただろうか。

この漫画を描いた武田さんは、まだ若い40代だ。こうした作品を書ける能力と意欲にただ敬服する。またこの漫画が戦記物としては異例のヒットをしたと聞くと、なぜか嬉しい気持ちになる。

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(最終第11巻の表紙。生き残ったもの、戦死した者たちが全員楽しそうに南国の海を泳いでいる。素晴らしい絵だ。)

 

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私は図書館で借りて、このコミックを読んだ。昔リクエストをしたら、図書館は漫画を購入しないといわれたことがあったが、そうではなさそうなので、ありがたい。そこらの教科書よりもずっと「ため」になる。「風雲児たち」が欠巻になっているので、ぜひこれを購入してほしいものだ。