青いバラ (名句に教わる7:池田澄子氏) 

青い薔薇あげましょう絶望はご自由に  池田澄子(1988年『空の庭』)

 

f:id:zukunashitosan0420:20191103161613j:plain (写真:wikipediaから)

青いバラは、今日こそ市販されているがもともと自然界には存在しなかった。

2004年にサントリーが遺伝子操作で開発したものだというし、おそらく作者が吟じたころはまだ無かった。あったら面白い、商品になる、ということからいろいろ品種開発が行われているところだった。

そんなところから、この句はまだ実体のない夢みたいなものを提供しますよ、あとはどう受け取るかは自由に、という風なことなのかもしれない。警抜な句である。

 

しかし私は、この句の青いバラは、テネシー・ウィリアムズの戯曲、『ガラスの動物園』(The Glass Menagerie:1945年)から、発想をえているかなあと思った。

戯曲のヒロインはローラという、足の悪い不器用な内向的な女性。人付き合いも苦手で、ガラスの動物を集めるのが趣味だった。心配した母は男性とつきあわせるため弟の友達を家に招く。ところが、この男性ジムがローラの初恋の男で、昔学生のころローラを「blue rose」とふざけて呼んだことがあった。ジムはようやくそれを思い出し、ローラに勇気を持って生きるように諭すので、ローラは明るい気持ちになるのだが・・・。ジムは婚約していると楽しそうに言い、ローラはまた絶望の淵に沈んでいく。

ガラスの動物園」を読み直さないと正確ではないが、あらすじはこんなことだ。

改めてこの句をよめば、ジムが言った台詞にさえ思えてくるではないか。この句が、「ガラスの動物園」を下書きにしているとしたならば、何か思いつきの洒落た句、ということではなく、まさに戯曲の中の救いようのないローラの精神を、叱咤激励する、心が本意なのではないだろうか。

 この句のように、相手に話すような形が池田さんの句に散見されるが、それを私は「ダイアローグ俳句」、つづめて「ダイアロー句」と仮に名づけている。(もしくは、つぶや句、か) 女史の句の一つのタイプだと思われる。