ソテツの精虫 または子規の埋め字

女子高の蘇鉄は雄株いま盛り
 
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近くの高校に蘇鉄の植え込みが何本もあり、それが一斉に花を咲かせている。最近剪定をしたら、隠れていた雄花が突然現れたもので、ちょっと驚いた。巨大な黄色い松ぼっくりのような、異様な姿があちこちに立っている。これはみんな雄株のようだ。
ソテツは花が咲くまで雄株か雌株か判別がつかないという。植木屋さん泣かせだが、そのあたり外れも面白い。
 
ちなみに、この高校は共学である。俳諧的に面白くしただけのことだが、あまり趣味の良い句ではない。
 
さて、ソテツやイチョウというと、受精の際に精子(精虫)が泳いで卵子にたどり着くという珍しい性行動で知られている。これを知った時に私は、植物と動物がやっぱり根本は同じ祖先だったのだと納得し、植物のなまなましさを感じたことがあった。
私の素人理解では、これらは風媒花なので花粉は風で飛んで雌株の裸の胚につく。そして花粉はしばらくそこにじっとしているうちに、雌の胚の中に次第に水が溜まってくる。すると花粉は精子をその水の中に放ち、精子卵子のフェロモンに惹かれて、うろうろと泳いで卵子まで泳ぎ着いてめでたく受精成功と相成る次第。人間にも通じるひめられた性のダイナミズム。
植物はたいていは花粉から管が伸びてその中をオスの細胞が移動して胚に達し受精するものだが、苔類やシダ類も精子が移動して受精するというから、下等植物では珍しくはないのかもしれない。
 
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ソテツの精虫を発見したのは、日本人の池野成一郎氏。明治29年のことで生物学上の大発見だったという。
このころ、子規と虚子はこんなことをしていた。
子規が虚子に「大名をとめて〇〇〇の月夜かな」の、欠字になっているところをなんでもいいから植物の名前で埋めてみよ、というのだ。二人でやっていた埋め字という作句の練習である。虚子はいろいろ出すが、子規は納得しない。牡丹とか芭蕉がまあ近いかなというのだが、とうとう虚子が降参すると、子規は「蘇鉄」だという。
大名をとめて蘇鉄の月夜かな 田福  
なるほど蘇鉄でなければならぬ、とつくづく感心した、と虚子は書いている。*1
明治の英才たちの目に映ったそれぞれのソテツの姿である。
 
*1 高浜虚子 「俳句の作りよう」角川ソフィア文庫

(参考) ソテツの雌株
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