ホタルブクロと池田澄子さんの句

 ホタルブクロや蜂の出入りこそばゆく

 

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雨上がりの庭を見たら、ホタルブクロが一斉に咲いているのに気が付いた。そういえば二三日、庭を見ていなかった。ホタルブクロは椿の木の下で、茎を少し横に寝せて、白い袋を沢山吊り下げている。その白さに、思わず夏の到来を感じる。

 

ホタルブクロは、見かけよりずっと逞しい。どんどんと回りに根を張って広がっていき、2,3年すると厄介者になる。なので私も個体数を適当にコントロールしながら、上手に折り合いをつけようとしている、つもりである。が、なかなか手ごわい。

 

さて、ホタルブクロから、また、池田澄子さんの句を思い出した。

 

 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの(1988年52歳『空の庭』)

 

これも池田さんらしい句で、女の子の独り言に近いちいさなつぶやきのようだ。

女の子が蛍といえば、「火垂の墓」を思い出さざるをえない。敗戦直後の混乱期、餓死した少年の遺体が持っていたドロップ缶から、ちいさな骨が飛び出て、それが蛍になる。その骨は、少年が必死に守ろうとしたが、しかし守り切れず餓死してしまった小さな妹の骨だった。それを抱えて少年もまた息を引き取ったのだ。

野坂昭如の小説だが、アニメのほうが記憶に残っている。

戦争は知らない私だが、戦争とか蛍とかいうと、知識というよりは幾分生理的な記憶がよみがえる感じがする。

 だからどうしても、「じゃんけんで負けて」は、本当は「戦争で負けて」だったのだろう、と私には思えてしまう。

敗戦の悲劇にまでひきつけなくても、この句からは、なにかしら儚い、命のおぼつかなさ、そして仏教臭のする命の輪廻が伝わってくる。

もしかしたら意外に古い伝統的な感覚が底辺にあるのかもしれない。そして女性にしかかけない句である。