かきつばたと牧野富太郎博士

かきつばた少年愛は院の中

 

藤枝にある田中城跡に、カキツバタを見に出かけた。

この城跡は、現在は学校敷地となりおもかげは少ないが、その一部の下屋敷跡が整備され、本丸櫓や茶室なども移築されていて、わずかに歴史を偲ぶことができる。カキツバタが咲くのはこの屋敷の庭池で、もう何回か見に訪れていたのだが、いつも遅すぎて散った後、ということが何度か続いていた。

今回は、いいタイミングだった。片岸が「養生中」で株がみな小さく花がなかったが、それでも満開のカキツバタを見ることができた。私としては一つの気がかりが解消できた。

 

それにしても、カキツバタの花の色は鮮やかだ。青というか紫か紫紺というのかわからないが眼にあやな手を広げたような形の萼をさらっと左右に開いて、潔い。そしてこれまた鮮やかで絵筆でひいたようなすらっとした葉の深い緑。花と葉が相まって、粋な若々しささえ感じられる。

庭を囲む白土壁との配色も、和風な品格を感じさせる。

 

(博士の書いたカキツバタの図 「植物知識」から)

NHKの朝の番組で、牧野富太郎博士がドラマ放映されている。氏の「植物知識」(講談社学術文庫)は昔の薄い文庫本だが、いろいろなことを平易に教えてくれる。例の毒舌も随所にみられ私の愛読書だ。

このなかにカキツバタも書かれている。カキツバタを「燕子花」と漢字書きするが、氏はこれを大間違いだと指摘し、「燕子花」は、オオヒエンソウのことで、中国北部や満州にあるが日本にはないと書いている。ネットでヒエンソウをみると全く似ても似つかない。情報がなかった時代は、このように知識も不正確だったことに改めて感じ入る。

また「杜若」の漢字が意味しているものも、「正体はアオノクマタケランであると指摘している」*1 これも似ても似つかないものである。

ということは、「かきつばた」には正しい漢字表記はないということになる。

 

そして俳句も7句披露している。そのうち3句を。

衣に摺りし昔の里かかきつばた

見劣りのしぬる光琳屏風かな

この里に業平来ればここも歌

 

*1 「増訂万葉植物新考」松田修 にこのように紹介されているが、わたしは原著を見ていない。