バロック音楽の皆川さんに

うしろより見る三月の去りゆくを

 

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バロック音楽のラジオ番組「音楽の泉」の終わりに、解説の皆川達夫さんが一言、退任のご挨拶をされた。「92歳になりました」「さようなら」とおっしゃられたときには、私の中で何か一つの時代の幕が下りた感じがして、思わずしんみりとした。

 

私はこの番組はあまり聞かなかったのだが、FMの朝6時「バロック音楽のたのしみ」の放送は3,40年間愛聴してきた。というよりタイマーセットで毎朝目覚ましに流れる生活だった。おかげでバロック音楽が文字通り体の髄までしみ込んでしまい、私の人生の一部となったようだ。

皆川さんはこの番組の解説を長年務められて、その衒いのない語り口は、朝の目覚めの頭脳に障りなく素直に穏やかに響いてきたものだった。(これが、家人に「起きなさい」などと言われると一日不愉快だったのだが・・・)

 

私に限らず、この番組が日本の音楽文化に与えた影響は大きいものがあると思う。バッハ、べートーベン、モーツァルト、3Bなどという固定観念を見事打ちこわし、広いヨーロッパの各地に固有の魅力ある民謡・音楽があふれそれが次第に洗練されていく様をしっかり教えてくれた。また宗教音楽だけでなく生き生きとした民衆の音楽があることも教えてくれた、そう私は思っている。 

私は今、下手なリコーダーを生活の楽しみにしているが、この喜びもまた番組のおかげに他ならない。去りゆく碩学に秘かに拍手をしたい。 

(駄句は、山口誓子句のパロディ)