オケラが咲いていた

この山に再来(く)ることありやオケラ咲く

(オケラ キク科 不機嫌なとっつきにくい花だ)

久しぶりの信州行き。長野市浅川の市営墓地にある義父の墓を訪ね、花を手向けてきた。コロナ自粛を経て10年ぶりにもなるだろうか。

墓地は善光寺から北に向かって2,3キロのところから300mほど上った山地にあり、途中善光寺平一面が見渡せる。ここへ来るようになって、もう半世紀はたってしまった。道路わきのサクラも老木になった。私も老化してきて次第に足が遠のいてきた。また何時来れるのだろうか?

晴れていれば飯綱山が背後に見えるのだが、この日は曇り。ときおり小雨も降り寒いほどだ。

 

墓地は山地を切り開いた場所なので、法面は松林で自然の植生が残っている。何か野草が咲いていないかどうか、と松林の中をのぞいてみた。

すると「オケラ」が灌木に紛れてあちこちに咲いていた。「オケラ」をみるのは、じつは初めてだ。山に普通に咲いている、と図鑑などにあるが、今暮らしている静岡の山で私は見かけることがない。

触ると、がちがち尖った葉が指に刺さった。不機嫌な花である。

 

例によって、宇都宮貞子さんの「秋の草木」を開いて見る。彼女は野草に関する民俗を丹念に書き残した人で、古典にも造詣が深く、地元の人々の話を方言そのまま活写した自然な文章は、彼女の人となりを偲ばせ暖かい。彼女のフィ-ルドは主に長野市周辺であり、とくにこの墓地のある、長野市浅川付近はその中心地である。

私はしばしばそんな彼女の目を自分の目にすこしダブらせながら、自然をみることがある。

「浅川では、「オケラは盆棚にゃ、痛いが上げるもんだ」という。」

と記して、戸隠でもアワバナ(オミナエシ)とキキョウとオケラの三花を盆花としていることが書いてある。山野に沢山咲いていたのだろう。

林の中には、黄色い小さな花も咲いていた。アキノキリンソウだろうか。急激に秋が深まる。