クマも狂うか

ウクライナ ガザに続いてクマのこと

(「北越雪譜」の「熊人を助く」の挿絵 これは牧之自身の筆になる

 国立国会図書館資料から)

 

あちこちでクマが出て、ニュースになっている。

今年の人的被害は最高になるのではないか。昨日も北海道で死亡事故があった。山奥ではなく人里、さらに市街地で襲われるという想定外の事故が増え、明らかにクマが人に急接近している。これまでは、クマは注意深いので人の気配を感じると逃げて離れる、という定説だった。しかし最近は、人を見ても逃げない、逆に襲ってくる、ということのようだ。人が舐められているのではないか。

ユーチューブを見ていると、いろいろな映像がアップされていて、クマの恐ろしさがよく分かる。

 

静岡県でも絶滅と言われていた伊豆半島でクマが出た。我が家の裏山は、賤機山地といわれていて、南アルプスからせり出してきた尾根の末端である。すなわち南アルプスへと一続きで、クマがいつ下山してくるとも限らない。

幸い私はまだ熊をみたことがないが。

 

クマと人との関係は昔とはずいぶんと変わってきたのだろう。クマは、今では管理すべき野生動物であるが、縄文の時代から主に東北などでは貴重なたんぱく源だった。加えて、皮や熊の胆は宝物だった。

クマの胆は高価な薬だったという。

北越雪譜」*1 に「雪頽(なだれ)に熊を得」という話がある。ある善良な農夫が隣家の延焼で財産を無くしてしまったが、雪崩に巻き込まれて死んだクマを手に入れた。そして皮を1両、胆を9両で売って幸せになった。という筋である。「大かたは金5両以上にいたるゆえに猟師の欲するなり」ともある。

 

いったいこの9両とは現在ではどの程度のものなのか、が知りたくなる。が、単純な換算はできないようだ。因みに、日本銀行金融研究所貨幣博物館のウェブで表している計算式を参考にしたある方の試算では、米価換算で1両は約40,000円、大工の手間賃で1両は約3~40万円、そば代で1両が約12~13万円くらいになるという。ずいぶん幅があるが、まあ20万円程度と仮定すると、農夫は200万円を手に入れたことになる。越後という田舎なので、もっと価値が高いかもしれない。宝くじに当たったようなものだ.

 

ついでに、宮沢賢治の「なめとこ山の熊」に小十郎がクマの皮を売る場面があったのを思い出して開いて見ると、値切られて値切られて、皮2枚2円で売っている。小説のなかでも、「いくら物価の安いときだって熊の毛皮二枚で二円はあんまり安いと誰でも思う。」と怒っているが、小十郎には荒物屋の旦那に抗う術がない。

この2円だが、今のいくら位なのか?

あるウェブでは、昭和2年の10円が平成24年の6,136円と換算している。してみると2円は1,227円だ。今この金ではコメ5キロ程度しか買えない。ウィキペディアで米価を調べると、昭和5年で米1升が32銭というデータがある。2円で米を買うと6.25升、約9.4キロとなる。やっと10キロ一袋。・・・やっぱり何だか怒りが湧いてくる。

それにしても、高価なはずの熊の胆のほうはいったいどうしたのか?小十郎は高値で売ったのか?「ひどく高く売れるというのではない」としか書かれていない。もうそんな時代になってきていたのか。

 

クマと人間はかつては食べ物連鎖の鎖の中に居たが、いまは、無関係になってしまっている。なかなか接点を作るのが現代では難しい。せいぜいジビエとして食べ、地域おこしの材料とするるくらいか。

 

それにしても熊の胆とは高価なものだ。昔の記憶では、富山の行商の薬売りの箱の中には「熊の胆」らしきものが入っていた。胃腸の薬だった。だがそれはオウバク(キハダ)を原料とした百草丸であって「にせクマ」と家では呼んでいた。本物は庶民の手に入るものではなかった。

 

以前、クマについてブログを書いていたので、参考に下記にリンクを張っておこう。

・・・とりとめのない記事になった。

 

https://zukunashitosan0420.hatenablog.com/entry/65980114

https://zukunashitosan0420.hatenablog.com/entry/65978593

 

参考*1:「北越雪譜」は越後塩沢の鈴木牧之が天保6年(1835)から発行したもので、雪国の生活を活写して江戸で大ベストセラーになった本である。

墨絵は、北越雪譜に掲載の、雪の中で迷いクマの巣に入りこみ、クマに助けられた話を牧之自身が描いたもの。牧之は絵もうまかったようだ。

 

(鈴木牧之の暮らした新潟県塩沢の街並み、生家跡、記念館がある)