甲斐の奇橋「猿橋」(シリ-ズ風景の中へ28)


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猿橋は見上げるがよし散紅葉

山梨県大月市猿橋という変わった橋があり国の名勝に指定されている。

長さは30mほどの木の橋だが、谷底が見えないほど深く、橋脚は立てられないため、めずらしい構造をしている。両岸から空中にせり出す刎ね木を4,5層重ね、その上に橋板をかけてあるもので、刎ね木橋とか肘木橋と呼ばれている。

大寺院などで見られるような、複雑な木組みで長い庇を支える構造と同じだと思われる。ということは、私見だが、宮大工の技術が投入されているのではないか。ただし詳細な歴史は不明で、伝説では7世紀に渡来人が猿が藤蔓をよじって渡ったのを見て作ったともいわれ、文献では13世紀鎌倉時代に記述があるといわれる。

この春九州でたくさんの石橋を見てきたが、猿橋もすばらしい。いずれも「橋」の本源的姿を見せて、一見の価値がある。

 

北越雪譜」を著した鈴木牧之に「秋山記行」という信越境の秋山郷に旅をした見聞録がある。この中に危険で恐ろしいことで有名だといわれた「猿渡橋」を、腹ばって渡る記述がある。(「北越雪譜」にもその抄録がある。)。牧之さんは、その恐ろしいのが望みで挑戦しており、まったくもって好奇心の盛んな人だったことがよくわかって可笑しくなる。

芭蕉は木曽の桟(かけはし)というこれも危ない奇橋を、

「桟(かけはし)や命をからむ蔦かづら」

とよんでいる。(更科紀行)。かつては架橋がいかに難しかったか、その幾分かは想像できるきがする。