冬の川に唸る(♪シリーズロ短調7)

さこさこの湍(せ)を集め来て冬の川


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冬の川は水が少ない。写真に見える新東名の安倍川橋は長さ約700m強であるが、それでも大きい川なので、まだ数条の流れをしっかり確保している。
土手沿いの細い流れに沿って歩いていくと、野草の緑が冬の陽に輝いて眼に鮮やかだ。水の反射も冬が一番きらきらしいのではないか。
歩を進める前方から飛び立って少し先の草叢に隠れたのは、カワセミだ。カワセミは近辺で間々見られるが、ここで見たのは初めてのことだ。さらに歩むとカワセミはまた飛び立って、今度は葦の藪のほうに飛び去ってしまった。
深い淵の水はいつもより澄んで濃い藍色をみせている。空を映しているが空よりも深そうだ。風に飛ばされたススキの穂綿が水面に落ちる。風でくるくる回る。
この淵で小一時間、私は民謡をさらった。今は宮崎県の「刈干切唄」。ああ高い声が出ないし、息が続かないんだよ!
唄の2番は、「もはや日暮れじゃ、さこさこ陰るよ。駒よ、いぬるぞ、馬草負え」である。「さこ」は「迫」で山陰や谷間のこと。西日本一帯の方言だと、町田嘉章氏は「日本民謡集」〈岩波文庫〉で説明している。でも、「さこ」は語感がいいので私も使わせてもらっている。
冬の陽が傾いでくると、安倍川上流のいわゆる安倍奥の山々がひんやり翳ってくる。文字通り「さこさこかげる」のだ。そろそろいぬるとするか、馬草はないが。
歌うという行為は、何なのだろうね。誰もいない石の河原に立って、生理的な快感に似た何かに包まれながら私は、音痴の高音に繰り返し挑戦する。