半音階的幻想曲

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バッハの「半音階的幻想曲とフーガニ短調」BWV903のまさに冒頭。
私はメロディーを追う程度しか楽譜がわからないのだが、この譜を見るだけで芸術的な刺激を感じてしまう。ほとんど絵画ですね。(シュトックハウゼンを想起するね)

地震で被災した子どもたちを支援するチャリティコンサートがあるというので出かけたら、この曲が演奏された。バッハの名曲の一つで、そのきらめくような楽想からよく知られているし、CDもたくさんでている。私の思い出の中にも登場し、義弟から結婚の記念にリクエストがあるかと問われて、私はこの曲を希望し、レコードをいただいたことがある。カール・リヒターの演奏で今は押入れの箱に眠っているが、しっかり記憶にはとどめている。

バッハはその老後には、曲の形式が古臭いといわれ、次第に表舞台から忘れさられていったのだが、鍵盤の達人として幾つかの曲はよく弾かれていたらしい。有名なトッカータとフーガニ短調とか小フーガなどと並んで、この半音階も有名だったようだ。
バッハの伝記の中で最も古い、フォルケルの「バッハの生涯、芸術および芸術作品について」はバッハの子のC・P・エマニュエルからじかに聞いた情報を書き留めていて、重要なのだという。そのなかで、フォルケルはこの曲について
不思議なことに、このひときわ技巧的な作品は、きれいに弾きさえすれば、どんなに教養のない聴き手にも感銘をあたえるのである。」とかいている。教養のない聴き手、とは当時の私のことを言われたきがする。

また彼は、「バッハのこの種の曲をもう一つ見つけようと非常に苦労したが、それは無駄に終わった。」これが唯一で類したものは他になかった、と述べている。
私は、BWV922のプレリュード イ短調あたりは、類似性を感じるのだがどうなのだろう。

とかく半音階部分が目立つのだが、後半のフーガに入るとふっと心が安定し、なおかつ華やかさを秘め格調ある展開となるので、やはり全体をとおしてこそ名曲なのだろうとおもっている。

演奏は、沼津市在住の原田さんという女性ピアニストで長くウィーンで研鑽をつまれた方らしい。低い椅子で演奏する姿から、私はG・グールドを思い出していた。ちなみにこの曲は普通10分はかかるが、グールドは6分ほどで弾いてしまっていた。


(フォルケルの評伝は「バッハ資料集」(白水社『バッハ叢書10』)の角倉一朗訳を引用)