スイセンの香り・・・ヘッセの詩から

水仙花今日の確かな雪消かな
 
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(ヘッセの水彩画)
スイセンの香りは
 
ほろ苦いけれど 優しい
それが土の匂いとまじりあい
なま暖かい真昼の風に乗って
もの静かな客人のように窓から入ってくるときは。
 
私はよく考えてみた・・・・・・
この香りがこんなに貴重に思われるのは
毎年私の母の庭で
最初に咲く花だったからだと。  ヘルマン・ヘッセ
 
私の近所では、もうスイセンが咲きそろって香りがしてくる。人は冬の花と思っているようだが、ヘッセの詩のように、私にとってもスイセンは真っ先に咲く春の花だ。とくに記憶によみがえるのは、母方の祖母の家の裏庭にあるものだった。
 
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(近くの堤防のスイセン
私の郷里は豪雪地帯で、半世紀まえは四月の新学期になってもまだ家の裏などに雪が残ることも多かった。春といえども土はまだ冷えていて、小さな野草が雪融け土からようやく芽吹いてくるような始末だった。そんな頃、学校へいく途中に通る祖母の裏庭にスイセンが芽生え始める。一列に一斉に芽を吹くその柔らかい緑は、モノトーンの雪景色に慣れきった眼にはまぶしく見えたものだ。

その裏庭に面した部屋は、傷病帰還兵だった祖父が療養し息を引き取った部屋だったことは、そのころは知る由もなかった。
子供らは雪解け水でぐしゃぐしゃな道路の水溜りを、長靴で戯れながら田んぼの真中にある学校に通った。車もさほど通らなかった時代である。
長じて、スイセンが毒草だということを知った。

(参考:「庭仕事の愉しみ」 ヘッセ 岡田朝雄訳 『草思社』)