吉野の葛湯を一杯

何処の産か本物かと言い葛湯吹く
 
イメージ 1


正月そうそう喉風邪を引き込んで、声が出ない。
暮にポイント交換でもらった葛湯があることに気づいて、いれてみた。
ほのかにショウガなどの香りもして、じつに和らいだ気分にしてくれる。子どもの頃,熱で食欲がないとき、母が飲ませてくれた記憶が淡くよみがえる。
 
どこの産なのと思い調べると、製造者は奈良県吉野郡の会社。高級品ではないが、原材料名には「本葛粉」とあるから一応ジャガイモなどは混ざっていないのだろう。しかし吉野地方の葛の根からとった国産だとしたら、とてもこんな値段では買えないから、輸入粉だと思っておくべきだろう。
 
葛は、根をつぶして晒して澱粉を取るが、これは日本だけの食文化ではなく、中尾佐助氏は、シナの南部、そして台湾とフィリピンの間にある紅頭嶼(現 「蘭嶼」)にすむヤミ族の例を挙げている。*1
してみると照葉樹林文化の一端に当たるわけで、はるかな昔、海路を伝わって日本に到来した食文化なのかもしれない。

古事記日本書紀には、神武が熊野からヤマトに進軍する折に、吉野や國栖(くず)にすむ未開の人たちを「土蜘蛛」「井の中に住む尾の生えた光る人」など異様な表現をしている。土の洞などに住んでいたことを意味しているのだろうが、おそらく北方の血の混じっている朝鮮系の「天津神々」=「神武」にとっては、熊野の人の生活も容姿も異様だったのだろう。
ということは、朝鮮ルートとは別に、南九州や土佐、南紀には、南シナからの海洋民が移住してきていて、彼らは朝鮮系とは容貌も文化も違っていた。葛の根を食用にすることも、この海洋民がたずさえてきた文化だったのではなかろうか。
 
万葉集には葛の歌は18首を数える。いずれも葛のたくましく性質をとらえて、枕詞や比喩としており、花を歌っているのは山上憶良の1首だけ、葛粉として食べるものは一つもない。*2
ということは、お米を神様とする大和朝廷・奈良の文化人にとって見れば、葛粉など話題にする価値もなかったのかもしれない。一説に、クズという植物は、大和の國栖(くず)のひとが葛粉を売りにきたので、クズという名前になったという話もあるが、万葉集をみた限りでは首を傾げざるをえない。
 
微熱無聊の松の内である。
 
*    1 中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」 岩波新書
*    2 松田修 「増訂 萬葉植物新考」 社会思想社