ヤブカンゾウを食べてみる

春の野辺草つむ人の遠近(おちこち)に
 
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のどかな春の陽射しに誘われて堤防を歩くと、法面に草たちの芽吹きが始まっていた。あんなに待ち焦がれていた春が、いとも易々と一度にやってきてしまった。草たちも幾分あわてているようだ。

かがんで何かしている人は、ああ、ヨモギを摘んでいる。
やぶの中からジジッ、ジジッと啼くのは、まだ囀れないウグイスだろうか。
桜の花芽が膨らみはじめていて、遠目にもうっすらと赤く見える。
 
枯草の中にヤブカンゾウがたくさん芽吹いているのをみつけた。
春の山菜といわれるが、わたしはこれを食べたことがない。けれど、宇都宮貞子さんの書かれた次のような一節が、以前から私の頭の中にあって、いつかヤブカンゾウを食べてみたいと思っていた。
ここでは、(旧)妙高村の呼び名で、アマナと言っている。
 
ズク(精)なしな私などはめったに野草も採らないが、アマナのぬたと、ヨモギのこね草餅だけは毎春一回は作る。アマナの根元を少し掘った白い部分はやわらかで、糊と甘みがあっておいしい。*1
 
宇都宮貞子さんは、信州の野草を愛して、里人から直接聞いた膨大な聞き書きを、いくつか本にまとめておられる。それを植物民俗学、などと呼ぶ人もいるけれど、学という体系的なものではなく、豊かで優しい感受性と古典の深い教養に支えられたエッセイといっていいだろう。
私はやはり信州の出で、宇都宮さんとは遠くないところで育った。そのせいか、なぜか懐かしく、四季折々につい彼女の本を手にしてしまう。
 
前段が長かったが、ぬたにして食べてみた。
シャリっとした歯触り、そして根っこのほうの甘み。一級の山菜というに値すると思った。
 
 
*1「やぶかんぞう」宇都宮貞子 『夏の草木』新潮文庫