石に夢想するー1 (肥付石 こえつきいし)

大石に残る二月のあたたかさ
イメージ 1

(路傍の 肥付石 )

私は静岡平野の北隅に住んでいるが、この辺りは昔からひどい湿地で米作にも適さない農村地帯だった。いま急速に都市の外縁になっているが、まだまだ散歩していると、集落の角々に庚申塚や馬頭観音みたいなものによくお目にかかる。
この中でも、いろいろいわれがある石に出合うので、地元の「麻機誌」を参考にして記録方々掲載しておく。つい最近まで日本人は、アニミズムの世界を生きていたことを感得させる。
 
一つは「肥付石 こえつきいし」。
位置は静岡市東地先になるだろうか、老人ホーム麻機園前の道路沿いに、最近できた地蔵堂の脇に鎮座している。以前は山の中の茶畑にあったという。一抱えほどの浅黒い丸石である。
 
この石は恐ろしい毒石で、うっかり触ると足が腫れ上がる不思議な病気にかかってしまう、と言われていたらしい。この病気は「こいはち」と呼ばれていて、高い熱が出て体がぶるぶると震え、食事はのどを通らず、どんな薬も役に立たない。直す方法はたった一つ、それは針金で鳥居を作り、この肥付石に供えて祈るのだとのこと。
元治元年の古文書にも、にわかに寒気がしてひどい熱が出て、片脚が股からくるぶしまで太くはれ上がり、歩くこともできず、半年も患っているものが多い、と記されているという。
また、近くの竜爪山から流れ出る水は、善人には長生きの薬だが、罪多い人には毒となって、この病気にかかるとも言われている、と麻機誌には書かれている。
 
イメージ 2
(肥付き石と隣の地蔵様 地蔵は昭和5年に近在に疫病がはやった時に守り神として安置されたと、かかれている) 

専門的な知識は私にはないが、ツツガムシ病とか破傷風などの風土病ではないかと思われる。
恐らく触ると病気になるというのは、触るなという禁忌があったということだろう。しかし山中にあったこの石が、何か政治的な意味や経済的な意味があったとは思えないので、想像を逞しくすれば、いつの時代かこの丸い石を庭石か何かにするため移動させようとして事故があり、それが石の祟りとして伝えられ、やがて病気と関連付けて忌避された。そんなストーリーが浮かんでくる。
それにしても、「こえつき」という名前や針金の鳥居は何を意味するのか見当がつかない。
 
野本寛一氏著の「石の民俗」は、静岡県の事例を豊富に集めて、人と石とのかかわりを解説している。この中で同名の「肥付石」が伊豆の函南町にもあり、また静岡市井川には毒石があるなどと、こまかに事例を拾っていて感心させられる。
だが残念ながら、人々はなぜ毒の石などを発明したのかについては説明していない。