鉄丸石という丸いものの正体?

短夜やわれは夢見る石の夢

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先日友人が、写真の6,7㎝の石を「これ、要る?」とよこした。安倍川の鉄丸石だと言うが、些か訝しい。外側を剥いで、磨けばいい物になるというので、後日金づちで少しづつ叩くとボロボロと土のように剥がれ崩れていく。一部に硬い層はあったものの、磨けるような鉱物質ではなく、内部は少し色が違った粘土のようで、あっけなく形をなくしてしまった。これはまだ名石になる前の未熟ものだったかもしれない。

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やっぱりなあ、と思ってみていたが、しばらくすると蝶々がそこに飛び降りてきた。イチモンジチョウだ。夢中に土くれを吸っている。ひょっとすると、丸石の中に何百年?も蔵され、熟成した何か古酒のような旨味があって、それに酔い痴れているのかもしれない。もしかしたら、伝説の魚石のように、丁寧に扱えば何か宝が潜んでいたのかも、などと思う。

 

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鉄丸石といえば、庭にほったらかしたままのものがある。15㎝ほどの丸石で、何十年も前に職場の先輩が「もってけ」というので引き取った。鉄丸石とかダルマ石とかの名で呼ばれている、安倍川流域で産する名石だという。

名石に興味はないが、この本物の鉄丸石にはある種の不思議がある。まずとても重い。それから、この名で呼ばれているものは、みな似たようなダルマ型をしている。

 

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で、一体これは何者なのか調べてみると、ウェブに論文があったのだが難しくて私の頭では良く分からない。自己流に解釈して極めて大雑把にまとめると、

1 静岡県の足久保川や高知県室戸半島に「鉄丸石」が出ること。三浦半島と房総半島には「へそ石」と呼ばれる似たような石が出ること。

2 これらは、内部に管状の痕跡があり、典型的なものは、管の端が両端にみえ、それをへそとも呼んだこと。

3 へそ石と鉄丸石は、中心を貫くチューブの周りに形成された炭酸塩類のコンクリーションであると考えられる。チューブをつくっていたのは泥質の海底に生息する生物で、たとえば多毛類やチューブワームの巣穴もチューブの対象として考えられる。 すなわち、へそ石と鉄丸石は生痕化石の一種であると考えられる。(本文ママ)

4 へそ石および鉄丸石は、内部に中軸があり、側縁に拡がる葉理がある、同一の内部構造をもつ。このような内部構造はTasselia ordamensisの生痕がコンクリーションとして化石化したと解釈できた。(ほぼ本文のママ)

ということだが、まず、炭酸塩類のコンクリーションとは自然界で出来たコンクリートのようなものだという。次に、Tasselia ordamensis とは毛が広がっているゴカイの仲間のことらしく、それが石の中に痕跡としてあるのだという。

f:id:zukunashitosan0420:20200601174511p:plain (こんなようなものだろうか? ウィキペディアより ゴカイの仲間)


ということは、ゴカイの体または住処?が元となり、そこに海底でカルシウムなどが溜まったり、後にカルシウムなどがほかの鉱物に置き換わってできたもの。ということでいいのだろうか。ゴカイがもともとの起源で、それが化石となりやがて大きく鉄の棺をかぶった、ということ。本当かな?俄かには信じられないが、学者が言っているから真実なのだろう。

私は、山や旅先などから小石を拾ってきてしまう悪い癖があり、身の回りに石ころがコロコロしているが、整理してないので何処の何の石かすっかり忘れてしまっている。でも小石は、地球の小声のつぶやきのように思えて、ついつい手にしてしまうのだ。

 

f:id:zukunashitosan0420:20200601173938j:plain  (確かにへそが下底に見える)

 

(参考の論文)

「四万十累層群の生痕化石起源の炭酸塩類コンクリーション–三浦半島と房総半島の葉山・保田層群産へそ石・静岡県高知県の瀬戸川層群と室戸半島層群産鉄丸石–」

神奈川博調査研報(自然)2012, 14, 93-102.  蟹江康光1)・服部陸男1)・和田秀樹2)・池谷仙之3)