銀杏の黄葉を見たいとアチコチ

垂乳根に祈る夫婦や銀杏散る

f:id:zukunashitosan0420:20201130144859j:plain(黒俣の大イチョウ

イチョウの黄葉は本当に美しい。今年はぜひいい風景を見たいと思って今日まで4か所回ったのだが、1勝3敗だった。

 

まずは3敗だが、1敗は、富士宮市西山本門寺の境内に立つ三本の銀杏。老大樹という訳ではないが、広い境内に枝を大きく張っていて、これがすべて黄葉したら何と素晴しいだろう、と前々から狙っていたもの。今回勇んで出かけたのだが、既に落葉してしまっていた。落葉はまだ木の下に広がっていたものの、色褪せてもう美しくはなかった。 

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2敗目は、富士市の富士岡の地蔵堂の大イチョウと言われるもので、これは初めて行ってみたが、まだ緑だった。集落の中の広場に地蔵堂が鎮座し、それを覆うように大木は聳えていた。県の天然記念物指定で、幹周囲620cm樹高26m。乳房のように気根が大小垂れさがっていた。それが母乳の少ない母親たちの祈りの的になったのだろう、倹しく切ない気持ちがしてくる。ここは後日リベンジしたい。 

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3敗目は、静岡市の久能海岸通りにある石蔵院のお葉つき銀杏。これも葉はまだ緑だった。県指定の天然記念物で、葉の先に実がつくと説明されている、が目を凝らしたが実が見えなかった。幹周囲480cm樹高30m。南西側の枝は潮のせいなのか痛んでいて、枝ぶりが美しいとは言えない。寺の近くには家康の廟である久能山東照宮があり、また石垣イチゴでも知られた観光地でもある。ここも後日リベンジしたい。 

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唯一1勝にカウントしたのは、静岡市の山間部清笹峠近くにある黒俣の大銀杏。ここへは県道32号を静岡市街から26キロ車で小一時間である。県指定の天然記念物で、幹周囲870㎝樹高20m。急峻な道路のカーブの崖の上にあり、集落を見下ろして枝を四方に見事に広げて堂々たる姿である。黄葉はピークをやや過ぎたくらいであった。樹下一面の黄色い絨毯もきれいである。この木は幾度か見ていたが、黄葉をみるのは初めてであり満足した。 

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さて、イチョウは神社や寺に大木があるので、てっきり古代から日本にある木だと思っていたら、どうやらそうではないようだ。そういわれれば万葉集や平安文学には登場しない。源実朝鶴岡八幡宮で甥の公暁に刺殺された事件は有名だが、公暁は正面石段の大銀杏の陰に隠れていたと伝えられている。ということは鎌倉期には移入され既に大木になっていたかと考えるが、実はこの言い伝えの基は江戸期の書物であり、当時の史書吾妻鏡などにはイチョウという記述がないのだということだ。先年参拝したときにはもうこのイチョウは倒れた後で、跡地は新たな芽生えを待つように整備され、古い木の幹は近くに置かれていた。鎌倉期から室町期に中国から入ってきた、と漠然と考えておけばよいようだ。 

恐竜のいた時代から連綿と命を繋いできた木で、生きた化石と言われているが、枝ぶりを見ていると確かに何か古い無骨な形が感じられる。 

(木のデータは静岡植物研究会「静岡県の巨木」1991年による。)