ゲンノショウコ(験の証拠) フウロソウ科

花愛ずる人もあるらし験の証拠

 

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「現の証拠」とかいて、薬草の効果がすぐに出てくることからつけられた名前だという。名前のインパクトはヘクソカズラママコノシリヌグイといい勝負だ。ただし「現」ではなくて「験」だという人もいる。私は、かつて修験者が山を下り、里の人々に治療を施したことを思えば、「験」のほうが説得力があると思う。「これが、○○権現のお力じゃあ!」とでも言ったかもしれない。

 

ともかく、その効果は高く、胃腸に関する患いのほとんどに効き目を現した。センブリなどと並んで日本の民間薬草の最たるものだろう。田舎の家ではこれを夏場にとって軒に干していた映像を思い出す。

わたしの記憶では、故郷奥信濃飯山線の線路わきに無尽蔵に生えていた。道のわきにもいくらでもあった。昭和の田舎育ちには、あまりにも当たり前の草であった。といっても、私の家ではこれを煎じて飲用することはなかった。時代が少しずつ変化していたのである。

 

こんなに民間で重宝されたはずなのに、古典などにはあまり登場しない。花の随筆集などでもあまり目にしない。一茶はどうかと調べたが、出てこない。宇都宮貞子さんにも単語が3回ほど出てくる程度だ。なぜだろう?

 

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(種の鞘 写真:「薬草」野外ハンドブック11 山と渓谷社 から)

 

この草の種は、種を飛ばすと残った種の鞘が、くるりと撥ね返る。子供のころ、その鞘を取って唇につけて遊んだ記憶がある。鞘は半月形をしていてバネのように弾力があるので、子供の唇をしっかり挟んでくれる。それを10も20もつけて、未開人の刺青を真似たものだった。「クチビルバナ」「クチドメ」などとも呼ばれたと、中田幸平さんは書きとめている。*1

 

ゲンノショウコは静岡ではあまり目にしない気がするが、探し方が悪いせいかもしれない。今回は山道を歩いていて、ふと目に留まった一株である。

静岡付近を境にして、東は白花、西は赤花が多いようだ。

 

*1 中田幸平 「野の民俗」 社会思想社