茶摘み唄 新緑の海に

茶娘は老いて新芽の茶山かな

茶どころ静岡の茶山は、いま美しい緑の樹海になっている。この連休は茶摘みの真最中で茶農家さんもこの時季は大忙しだ。

けれど、山を歩いていると荒れた茶畑が非常に目につく。父祖伝来とはいえ条件の悪い茶山を守っていくのは難しい。茶の需要は下がり後継者もいないなかで茶産業は危機的といえる。農薬もたくさん使われれていると聞く。50年も経てば、静岡の山はチャノキの原生林になっても不思議ではない。

 

長年、産地を支えてきた茶産業だが、実はあまり唄に残されていない感じがする。

茶摘みの歌といえば、まず「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る」という唱歌を思い出すが、これは明治の頃のもので作詞者作曲者とも不詳だといい、ローカルさが全くない。 

次に、静岡では「ちゃっきりぶし」という民謡がよく唄われているが、これは現静岡鉄道が沿線のPRのために北原白秋に懇願して詞を得、町田嘉章が作曲したものだということはよく知られている。いわゆる新民謡だが、私はあまり馴染めない。

 

この中で「ちゃっきり、ちゃっきり、ちゃっきりな」という囃子言葉があり、何の意味かずっと訝しく思っていたが、これは茶ハサミという道具で茶を刈るときの音をイメージしているようだ。歌の5番に次の歌詞があり、これならよく分かる。

♪  日永、そよかぜ、南が晴れて、
  茶つみ鋏の、そろた鋏の 音のよさ。
  ちやっきり ちやっきり ちやっきりよ、
  きやァるが啼くから雨づらよ。  (原文ママ

私は茶摘み仕事をしたことがないので、この感覚がよく分からなかった。地元の人には当たり前のことなのだろうか?

因みに静岡鉄道のHPを調べると、「ちゃっきりぶし」は何と30番まである。

埋もれてしまっている人々の歌はないかと調べると、静岡県教育委員会が残した「静岡県 こころのうた」(平成8年5月発行)には、茶摘みから茶揉みなどの作業唄が10ほど採譜されていて、貴重な資料だ。

けれど昔の労働かなどは原曲通りではあまりに鄙びていすぎて理解できないので、現代でも唄えるようにアレンジして、是非こうした文化遺産を伝えてほしいものだ。

資料のなかでも静岡市梅ヶ島の「茶もみ唄」は歌詞も鄙びて豊かで、ぜひ編曲してほしいものの一つだ。

 

山形の民謡歌手に朝倉さやさんという方がいるが、山形弁ではやり唄を唄ったり、民謡を新しいサウンドに乗せて歌ったりと、実験的な試みをされている。圧倒的声量と歌のうまさ、土の匂いが魅力である。

彼女が静岡の各地を回る「ひとり観光協会」とかいうテレビ番組があった。そのなかで静岡の「茶摘み唄」を再現・アレンジして歌うのを聞いた。今は彼女の持ち歌にしていて、ユーチューブで見ることができる。なるほど面白い素晴らしい歌になっている、と思うが、すこし難しすぎて素人の耳には音がとれない。けれど意欲的挑戦だし、民謡を伝えるという志を感じられて嬉しく思えた。