ヒトリシズカが来た

起きるよりヒトリシズカを幾たびも

 

ヒトリシズカがようやく咲き始めた。「造化の妙」についついみとれてしまう。

はじめは赤黒い太いマッチ棒のような茎が慎重にかおをのぞかせて、よく見るとその先はこれから開いていく葉であって、中に白いものがちょっと覗いている。これが花だ。そして二三日もすると、赤黒い葉は緩やかに開いて、しっかり抱いてきた大事な白いものを春の日に解き放す。白い花は歯間ブラシのような形状で、可愛くきれいだ。

このように、じかに花が飛び出してくる芽生えはドラマチックだ。思えばフキノトウもセツブンソウもそうだった、春先のドラマかもしれない。

 

庭には4か所に植えてあるが、昨年そのうち一つに白いカビが出て駄目になった。今年は3か所からぶじに発芽してくれた。

と思ったら、昨日今日と25度になる夏日。春を通り越して初夏の陽気になり、陽ざしが痛いほどだ。キンポウゲもぽつぽつと咲いてきた。ヒトリシズカとキンポウゲではつり合いが取れない。鶯が毎日泣いてくれるが、もうホトトギスが聞こえてきた。

春の訪れを楽しむ、という余裕をあたえてくれそうもない。

 

ヒトリシズカは、一人静と書いて静御前から名をいただいたと言われるが、眉掃草とも呼ばれていたことを、先日初めて知った。眉掃(まゆはき)って何なのか分からなかったが、ネットで調べて、ああそうか成る程なあと思った。しかもこう呼ばれることは普通に知られているらしく、知らなかった自分がちょっと恥ずかしい。

 

「花の文化史」で山田宗睦さんが、芭蕉奥の細道の尾花沢でよんだ

 

眉掃を俤にして紅粉(べに)の花

 

をひいて、これは「婦人の眉掃きにベニバナの花の形が似ていると見たのである。・・・しかし眉掃きの形に似ている点では、ヒトリシズカのほうがはるかにちかい。眉掃き草の名をあたえたものたちに、わたしは賛同する。こい輪生の四葉枚にうく花糸の白いのもいい。」と惚れ詞を綴っている。

 

眉掃きを私はよく知らないが、ペンペン草とかカモジ草など庶民生活の身近にあるものの名をつけられた植物には親近感がわく。ヤブレガサジュウニヒトエ、イワウチワなどの名前が思いつくが、みんな暖かさに驚いて目覚めているのではないか。