「雪国のスズメ」(風景の中へ32)

寒雀軒端に朝の光あり
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(軒端じゃないが・・・)

先日「冬ツバメ」、そして「ちいさいおうち」のことを書いたら、「雪国のスズメ」のことも書きたくなった。
鳥好きの小学校の先生佐野昌男さんが、雪の多い厳しい環境の隔絶した集落を選んで、そこのスズメに密着して生態を調査した本で、昭和40年代の初めのころの様子がよくわかる。
研究のフィールドに選ばれた厳しい場所とは、長野県飯山市の分道という標高800mの集落。今の斑尾スキー場の近くに当たると思われる。積雪は2mをこす。
彼は国鉄飯山駅から片道3時間雪の中を歩いて、この集落にたどり着き3,4時間調査をして下山、また篠ノ井まで戻るという並外れた執着心で研究に取り組むのだが、全編に溢れるスズメに対する愛着、自然とその中に暮らす人びとへの深い情愛が感じられて、すてがたい著書になっている。

著者が、分道を研究の地に選んだときの気持ちを、こう書いている。

しばらく尾根を進み、”えんの沢”の上で大きく迂回すると、眼前がパッとひらけました。広い大きな谷の向こうに、何軒かの小さな家が目にはいりました。うしろに雄大斑尾山を背おい、西に傾きはじめた太陽の逆光のなかにうかぶ分道は、気の遠くなるような広い空間に存在する情景として、私の心に深く印象付けられました。・・・
わたしが心のなかに描いていた山の中の人びとの生活のにおいが、そののどかな姿に感じられました。わたしの捜し求めていたスズメが住んでいる情景は、「ああこれなんだ」という思いに、わたしはひとりうなずきました。

先日紹介した「ちいさいおうち」の台詞とまるで同じなのだ。
「ああ ここが いい」と、ちいさい おうちも、ちいさい こえで いいました。(石井桃子訳)

分道、という集落は今もあるのだろうか。もうだいぶ前にわたしは、斑尾高原にドライブに行き、ぐんぐん高度をまして行く山道の途中で、分道とかかれたバス停を見出した。集落はその周辺に散在していた。5月の斑尾の湿原にはミズバショウリュウキンカが満開だった記憶がある。

この本によれば、分道のスズメは60羽ほどで幼鳥が巣立つと100羽ほどになり、積雪期を迎えると住みつきの場を持っている60羽ほどにまた戻るのだという。分道にはその数しか冬季はスズメを養えないのだ。若鳥は分道を離れ、暖かい地方に出て行くらしく、岐阜県巣南町まで220kを移動した分道のスズメが観測されたという。過疎地域の、人間の行動となんら変わることがない。

(この本は、もう昔の本だが私は初版のハードカバーのを人にあげたので、もっているのは改訂版だが、誠文堂新光社から1991年にでている。)