ウマノスズクサと馬鈴薯

小用を足さんとすれば葛葎

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野原は油照りだが、次第に秋の気配も見せ始めた。この時期に一番目立つのはつる植物。クズやカナムグラ、イシミカワヤブガラシなどが各々自分がたくさん日を浴びようと、絡み合いながら、野原をのたうち回っている。甲斐信枝さんの絵本を思い出す。
そんなうんざりするような藪原を見ているうちに、ふと目に入ったのが、このサックスのような形をしたもの。これは今まで見たことがない。なんだろう?調べると、ウマノスズクサという植物で、日本中どこにでも見られるものだという。知らないのは私だけだった。


ラッパのような形をしたものは、花筒といいその底の丸い部分に花があり、コバエなどが入っていくと、内部に奥向きに生えている毛によって、出てこれなくなるのだという。ところが、花が次第に熟し雄蕊が成熟してくると、内部の逆毛がなくなり、コバエは外に出ることができるようになる。花粉をつけたコバエはその後、別の花に入って受粉を助けることになる。そういう奇妙なからくりなのだそうだ。確かに見るからに一癖ありそうだ。加えて有毒で、ジャコウアゲハの幼虫の食草であるともいう。
それにしても、ウマノスズクサというのは、何なのか?答えは、この花が結実すると、馬の首に下げる鈴に形が似ていることから、来ているらしい。だが実際は結実することが極めて少ないのだという。

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花巻駅で買った小さいチャグチャグ馬子

馬の鈴と言えば、チャグチャグ馬子を連想するが、民謡の馬子唄では伴奏に鈴を鳴らす。今日ではイメージが湧かない言葉になってしまった。


が、馬鈴薯なら誰でも知っている。言うまでもなくジャガイモ、ポテトのことである。だが、ここでまた登場するのが、牧野富太郎博士。

「ジャガイモは断じて馬鈴薯ではない」として、滔々とまくし立てている。博士によれば、ジャガイモに馬鈴薯という名称を当てはめたのは、江戸時代の植物学者小野蘭山で、彼は中国の「松渓県志」にある5,60字の記述から判断した。文中に「之レヲ掘り取レバ形ニ小大アリテ 略ボ(ホボ)鈴子ノ如シ」とあるから、この姿から馬鈴薯という名前になったのかもしれない。

ところが、その記述では馬鈴薯とは蔓草らしく、薯は黒く苦甘いとしていて、博士は、これはジャガイモではなくマメ科のホドイモかもしれない、としている。しかも中国ではジャガイモを洋芋と呼んでいて、馬鈴薯と呼ぶことはないようである。
小野蘭山の間違いにより、日本ではジャガイモが馬鈴薯になってしまった。

馬鈴薯の名称を断乎として放逐すべし」と、博士は同名の随筆で怪気炎を上げている。


話が飛んでしまったが、ジャコウアゲハも面白そうなので、ウマノスズクサを庭にいれてみたい欲望にかられている。
(参考:「牧野植物随筆」講談社学術文庫