音も無き木下闇や蝶の径
山道を歩いていたら、おや!何か鮮やかな紫色の小さいものがある。
蝶だった。
シジミ蝶のようだ。羽を展げたままじっとしている。あまり警戒心はない。それにしても鮮明な紫色で、しばしみとれてしまった。
だが、よく見るシジミチョウと違って羽を展げている時間が長い感じがする。余りせこせこ動かないし、幾分体も太い。小さいけれど、言ってみれば大物、いや、ちょっと鈍感な印象。
やがて飛び立って、付近をうろうろしていたが、くらい竹林の中へ行ってしまった。帰り道で、再びこの蝶にあった。同じようなところに居て、やっぱり羽を広げてじっとしていた。
帰宅して調べたら、ムラサキシジミという大して珍しくはない蝶だった。話題にするほどのものではないのかもしれない、が、色は目が覚めるほど鮮やかだったのだ。
やはり山道で、小さな滝のすぐ近くのマサキなどの葉にたくさんの幼虫が居ることに気が付いた。幼虫というかサナギ、または今まさにサナギになろうと網を張っているものたち。毛がたくさんあって茶色をしており大型の蛾なのかもしれない、などと推測する。眼につくだけでざっと20ほどはある。これがあるとき一斉に羽化して飛び立ち交尾するのだろうか。鈴木牧之の「さかべっとう」を思い出した。
同じ日、木漏れ日の山道のぬかるみに、地味な蝶が10羽ほど集まって乱舞していた。地面に降りて停まったら写真を撮って調べようとしばらく待っていたが、全然降りてこない。写真はあきらめ、蝶の名もわからずじまいになった。
交尾相手を探しているのだろうか。沢の音と鳥の声しか聞こえない山林で、羽音もたてない蝶たちの真昼の三密が繰り広げられていた。
この沢で、三光鳥を聞いた。